傷痕~想い出に変わるまで~
「おまえが結婚してたから何も言わなかったけどな。俺もその後結婚したけど離婚したし、こっち戻ってきたらおまえも離婚してたからずっと狙ってたんだよ。」

それは知らなかった。

私はずっと門倉にロックオンされてたのか。

私は気付かないうちにまんまと門倉の手の内に捕らえられていたってわけだ。

「狩人みたい。気が長いんだね。」

「そうでもねぇ。なんなら今すぐ噛みついてやろうか。」

「それはやめて。約束やぶると光に怒られるから。光の最後のお願いだからね。ちゃんと全うしないとあの世で合わせる顔がないよ。」

「あの世でって…婆さんか、おまえは…。」

門倉は呆れた顔をしてビールを飲み干しおかわりを注文した。

「俺もあいつにでかい口叩いたからな。中途半端で引き下がるわけにはいかねぇんだ。」

なんのことだろう?

門倉が光と個人的に話したことなんてあったのかな?

「それ、なんのこと?」

「おまえが会社で倒れて入院したってあいつに電話した時にな…。本当に篠宮が好きなら傷付けるのはやめてくれって言ったんだ。俺が何言っても篠宮はあんたを選んだんだから、せめて大事にしてやってくれって。幸せにする気がないなら早く身を引いて篠宮を俺に任せてくれ、俺が必ず幸せにするからってさ。」

「えっ、そんなこと言ったの?!」

私の知らないところでそんなことを言ってたのか…。

だから光は…。

「余計なお世話だったか?」

「ううん…。おかげでさ…別れる少し前の光は昔よりも優しかったし、すごく大事にしてくれたよ。ありがとね。」


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