傷痕~想い出に変わるまで~
ほんの束の間だったけれど、昔みたいに優しい気持ちで光と一緒に過ごせた。

お互いに素直に気持ちを伝えられたと思うし、光との最後の想い出を優しいものに上書きできたことは本当に良かったと思う。

「お互いにすごく幸せだった頃に戻ったみたいに優しい気持ちになれたよ。光のこういうところが大好きだったとか、楽しかったこととか…今はつらかったことより、幸せだったこと思い出すようになった。」

「そうか。」

「もう会えないって思うと余計にそうなるのかな。ますます次の恋は遠のいたかも。」

「えっ。」

ジョッキを傾けようとしていた門倉が目を見開きものすごい顔をして私の方を向いた。

「遠のいたって…具体的にどれくらいだ。」

「んー…せめて3回忌が終わるくらいまでは光を偲んで禊続けようかな。」

私の言葉に門倉は気が遠くなったのか、信じられないという顔をしている。

「3回忌って…丸2年もか!せめて1周忌までにしろ。おまえも俺も、もう33だぞ?!そんな悠長なこと言ってる場合かよ!」

「うん…そうなんだけどね。ちゃんと大事にできなかった分、もうしばらくは光だけの瑞希でいてあげようかなって。だから門倉は私に構わず新天地で新しい恋を見つけてよ。」

門倉は大きなため息をついて勢いよくビールを煽った。

「……おまえ、俺のこと嫌いか?」

「ん?嫌いじゃないよ。」

「じゃあ好きか?」

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