傷痕~想い出に変わるまで~
3回忌の法要の後の会食も終わり出席者が挨拶をして席を立ち始めた頃、光のお母さんが私を呼び止めた。

「瑞希ちゃん、ちょっといい?」

「はい、なんですか。」

お母さんは光が生前使っていた部屋に私を案内して、タンスの引き出しの中から箱を取り出した。

懐かしい。

二人で行ったテーマパークでお土産に買ったクッキーの箱だ。

「これ、開けてみて。」

なんだろう。

そっと蓋を開くと、中には二人で撮った写真が数枚とお揃いで買ったキーホルダー、そして映画の半券が入っていた。

その写真の中では大学時代の私と光が肩を寄せ合って笑っている。

お揃いのキーホルダーはテーマパークで買ったもの。

そして初めて二人だけで出掛けた時に見た映画の半券。

光、こんなの大事に取ってたんだ。

そしてその奥に綺麗にラッピングされリボンのかけられた小さな箱が入っている。

リボンと包装紙の隙間にはメッセージカードのようなものがはさまれていた。

「離婚した後、瑞希ちゃんの誕生日に渡したくて買ったみたい。でも会う勇気がなくて渡せなかったのね。」

リボンと包装紙を外し赤いベルベット調の箱を開くと、中に入っていたのは小さなダイヤのついたピアスだった。

「あ、これ…。」

結婚してまだ間もない頃、一緒にショッピングモールに行ったことを思い出した。

ジュエリーショップで見掛けたダイヤのピアスがとても気に入って、欲しかったけどあの時は新入社員の私たちにとっては値段が高いのであきらめた。

別のものかも知れないけれど、もしかしたら光はその時のことを覚えていたのかも知れない。

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