傷痕~想い出に変わるまで~
若かったな、二人とも。

一緒にいられたらそれだけで幸せだったんだ。

それ以上の幸せなんてないって思ってたはずなのにな。

「離婚した私の意見なんて参考にはならないかも知れないけどね。二人が同じ方向を見てるうちは、いろいろわからないなりに頑張ってうまくやってたと思う。」

「うまくいかなくなった理由って…。」

「私は仕事に没頭し過ぎて相手が弱ってることに気付けなかったから見切りつけられたけど…早川さんならうまく両立できるかも知れないし、もう一度よく考えてみたら?」


食事を終えて店を出る前に、彼ともう一度話し合ってみますと早川さんは言った。

二人がどんな答を出すのかはわからないけれど、二人にとって少しでも良い方向に向かえばいいなと思う。





3時を過ぎた頃。

少し手が空いたのでひと休みしようと、小銭入れとタバコを持って自販機コーナーへ足を運んだ。

自販機の前では飲料メーカーの若い男性が自販機の扉を開けて中を覗き込んでいる。

故障かな?

別の自販機まで買いに行こうか。

だけど熱いコーヒーの入ったカップを持って喫煙室まで歩くのは面倒だ。

すぐに使えるようになるなら少しくらいは待ってるんだけど。

「すみません、もう終わりますんで少しお待ちください。」

背後で立ち尽くして自販機の方を見ている私の存在に気付いたのか、その男性は背を向けたままで私に声を掛けた。

「はーい…。」

どことなく聞き覚えのある声だ。

若い男性の声なんて似たようなもんか?

「どうぞ。お待たせしてすみませんでした。」

その人がにこやかな笑顔でクルリと振り返った。


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