傷痕~想い出に変わるまで~
結婚しても本当の意味では夫婦になれなかった。

大事なのは形じゃなくお互いの気持ちだったんだ。

こんなこと今になって気付いても遅すぎる。

小さくため息をついてタバコに口をつけた。

門倉が言うように、私も光のことはもう終わらせるべきなんだと思う。

それなのにふとした瞬間にまだ光を思い出して懐かしんでしまうのはどうしてだろう?

まさかまだ光のことが好きだとか?

いやいや、それはない。

それはないはずだけど。

私も光もお互いが初めてまともに付き合った人だった。

それ以前にもちょっとした付き合いはあったけど、一緒に下校したりグループで遊びに行ったりする程度で、本気で好きになって男女の関係になったのはお互い初めてだった。

何もかもが初めての相手だから余計に忘れられないのかな?

私は光と別れてから誰とも付き合っていない。

思いきって新たな恋に踏み出してみる?

…と言ってもそんな相手はいないから、下手したら光が私の最初で最後の人になるのかも。

まだ32歳なのにそれではあまりにも寂しい気がする。

恋ってどうやってするんだっけ?

そんなことさえ忘れてしまった。


ビールを飲みながら、光との恋の始まりはどんな感じだったかなと考える。

……どんな?

一目見てビビッと来た!とか?

この人こそ運命の人だと思った!とか?

いや、そんなんじゃなかったな。

初めて会ったのは大学のサークルだったし、知り合ってすぐに付き合い出したわけでもない。

サークル仲間と一緒に過ごして行くなかでなんとなく気になり始めて、お互いを意識するようになった。

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