傷痕~想い出に変わるまで~

“瑞希ちゃんかわいいね。マジで俺と付き合おうよ”


先輩がそう言って私の肩を強引に抱き寄せた時、突然光がすごい勢いで立ち上がり、先輩から私を奪うようにして抱き寄せた。


“触らないでください!!瑞希は俺の大事な彼女ですから!”


光はそう捨て台詞を残し、私の手を引いて店を飛び出した。

好きだとか付き合おうとかなんにも言わなかったくせに、勝手に彼女にされてることには驚いたけど、やっとハッキリ“彼女”だと言ってくれたことが嬉しかった。

その後、ちゃんと言ってくれたっけ。


“瑞希が好きなんだ。俺の彼女になって下さい”


あの時の少し緊張した真剣な光の顔を今でも覚えてる。

嬉しくて何も言えず黙ってうなずいた私を、光はおずおずとぎこちない手付きで抱きしめた。

照れくさくてくすぐったくて、でも温かくて嬉しくて。

お互いが同じ気持ちだとわかっただけで舞い上がるような気持ちだった。

初々しかったな、二人とも。

帰り道で、ものすごくドキドキしながら手を繋いだ。

それから少しずつお互いを知って距離を縮めて。

何もかもが初めてで、ゆっくり時間をかけて触れ合うことを覚えて。

目の前のハードルをひとつずつ二人で乗り越えて行くような、そんな感じだった。

ずっと手を繋いで二人で歩いて行けると信じていたのに。

気付かないうちに別々の道を歩いていて、振り返った時にはもうお互いの姿は見えなくなっていた。

あんなに愛し合っていたはずなのに、ずっと一緒にいようと何度も約束したはずなのに、いつの間に私たちは手を離してしまったんだろう?



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