傷痕~想い出に変わるまで~
ビールのおかわりを頼んでタバコに火をつけた。

それにしても遅いな、門倉のやつ。

晩飯付き合えって言ったのは門倉なのに。

ここに来てからもう1時間近く経っている。

頼んでいた料理もほとんど食べてしまったし、ビールのおかわりを飲み終わる頃までに来なかったら帰ることにしよう。

店員からビールのおかわりを受け取り、タバコに口をつけた。

流れていく煙を眺めながらタバコを片手にビールを飲んでいると、店の引き戸が開いて新しい客が入ってくるのが視界の端に映った。

門倉かな?

そう思って入り口の方に顔を向けた。

店の外の暖簾をくぐって入ってくる人の顔を見た瞬間、口に含んでいたビールを吹き出しそうになった。

絶句して口元を拭った。

なんで光がここに?

誰かとの待ち合わせ?

光は店の入り口でキョロキョロと店内を見回している。

気付かれないように慌てて下を向いた。

どうか私に気付きませんように。

その祈りも虚しく、光は私の席に近付いてきて正面に立った。

「瑞希、ここ座っていい?」

いやいや、そこは門倉が座る席だから!

「あの…人と待ち合わせしてるから…。」

絞り出すようにそう答えると、光は勝手に椅子に座った。

待ち合わせしてるからって言ったのに!

「門倉さん…だよね?」

「えっ…なんで…?」

「俺が頼んだんだ。瑞希に会わせて欲しいって。連絡してって名刺渡しても全然連絡くれなかったから。」

「えぇっ…。」

そんなの聞いてない!!

門倉め、いつの間に光と連絡先の交換なんて…。





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