傷痕~想い出に変わるまで~
光が右手を挙げて店員を呼び止めると同時にジャケットのポケットの中でスマホが鳴った。

画面には門倉からの着信が表示されている。

「ごめん…ちょっと電話…。」

「ああ、うん。」

急いで席を立ち店の外へ飛び出して電話に出た。

「ちょっと門倉!!どういうこと?!」

「おぉ、元旦那と無事に再会できたか。」

電話の向こうで門倉はのんきに笑っている。

「無事にじゃないよ!なんでこんな勝手なことするの?!私、会いたいなんて一言も言ってない!!」

「だからだよ。このままだと篠宮は一生逃げ続けるんだろ?」

うっ…図星だ…。

「……そんなことない。」

「嘘つけ。」

「ちゃんと連絡するつもりだった。」

「だったら手間が省けてちょうどいいじゃん。いつまでも四の五の言ってないで、いい加減腹くくれよ。」

腹くくれって言われても、まずは心の準備ってもんがあるでしょうが!

「門倉が晩飯付き合えって言ったから待ってたのに…騙された。」

「俺じゃなくてあいつの晩飯に付き合えって俺は言ったつもり。」

「そんなの聞いてないってば!」

「往生際悪いな。とにかく覚悟決めて腹わって話せ。」

この間までは一緒に禊をしていたはずなのに、自分が元妻とのことを吹っ切れた途端、なんで急にこんな試練を与えるの?

私だけがどんどん取り残されて一人になってしまいそうで、急に不安になる。

「…私は門倉ほど強くない。」

不安な気持ちが思わず口からこぼれ落ちた。

オイルライターの蓋を開け閉めする金属音が微かに耳に響いた。

「しょうがないな。どうしても無理なら呼べよ。すぐに駆け付けるから。」





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