傷痕~想い出に変わるまで~
「なんか話がそれたけど…それから他に何言われたんだっけ?女のことだったか?」

運ばれてきた焼そばを取り皿に取って差し出すと、門倉はそれを受け取り口に運びながら話の続きを促した。

「あんまり話したくないんだけど。」

「黙って飲み込んだって篠宮がしんどくなるだけだろ。だったら愚痴でもなんでも聞いてやるから、洗いざらい全部話せ。」

門倉は私の頭をポンポン叩きながら真剣な顔をしてそう言った。

言われたこともされたことも想定外だった上に、その手があまりに優しかったから無性に照れくさくなって、私は慌てて門倉の大きな手を払い除けた。

「やめてよもう…子供じゃないんだからね。」

「俺はこんな素直じゃない子供は要らん。だけど今おまえの気持ちを一番わかってやれんのは俺だからな。」

もしかして門倉って天然タラシ?

それとも計算して言ってる?

無意識なのかわざとなのか、もしかするとその言葉に全然意味なんかないのかも知れないけれど、門倉もこういうこと言えるんだ。

どうせならさっきの受付嬢みたいな若くて可愛い女子をたらし込めばいいのに。

「また勝手に決めつけて…。門倉よりもっとわかってくれる人がいるかも知れないのに。」

私が照れているのを面白がっているのか、門倉は更にワシャワシャと私の頭を撫で回した。

「それはないな。もしそんな稀有なやつがいるなら連れて来いっての。昔はともかく、この2年間一番近くで篠宮を見てきたのは俺だろ?」

悪かったな、どうせ私は仕事が恋人の32歳バツイチ独身女だよ!


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