傷痕~想い出に変わるまで~
「とりあえず…仕事のことはお互いにちゃんと納得できるまで話し合った方がいいよ。曖昧なままで結婚するとちょっとしたことで状況が悪くなった時に、だからあの時言っただろうとか、俺と仕事どっちが大事なんだとか責められてうまくいかなくなる。」

「もしかして篠宮課長の離婚の原因って…。」

真剣な顔をして私の言葉を聞いていた早川さんが声を潜めた。

若い社員の中には私に離婚歴があることを知らない者もいるからだろう。

「私は仕事も主婦業も頑張ったけど、妻であることをおろそかにしてしまったらしい。だからうまくいかなくなって別れた。」

「そうなんですね…。」

「もうずっと前のことだからね。今ならきっとうまくこなせることも、あの頃は私も彼も若かったから自分のことで手一杯だったんだと思う。」

あの頃の私たちは相手に対する小さな不信感が少しずつ膨らんで、離婚する少し前にはほんの些細なことでさえ許せなくなっていた。

お互いに相手を思いやれなくなって、うまくいかないことの責任をなすりつけ合っていたように思う。

私たちの気持ちはいつしか冷えきって、違う方向に向かっていた。

今になって振り返ると、なぜあんなに自分の枠に相手をはめ込んでしまおうとしたのか、どうして話し合って解決しようとしなかったのか、後悔することばかりだ。

「脅かしたみたいで悪いけど…早川さんには幸せになって欲しいからさ。お互いに歩み寄ったり譲り合ったりする気持ちだけは忘れないようにしてね。」

「肝に銘じておきます。」




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