傷痕~想い出に変わるまで~
喫煙室で門倉と一緒にタバコを吸いながらコーヒーを飲んだ。

手の震えは止まっている。

何も言わなくても私のコーヒーは砂糖無しのミルク入りだった。

「…嘘つき。約束なんてしてないし、予約が必要な店になんて行ったことないのに。」

「あー…なんだ、そういう店に連れてって欲しいのか?」

「違うわ!!門倉とは居酒屋でじゅうぶんでしょ。」

「なんだそれ。俺って居酒屋止まりの男?」

わけがわからん。

居酒屋止まりの男ってなんなんだ。

門倉が手を出して2本目のタバコを無言で要求した。

ホントにムカつく男だ。

「そりゃまぁ今日のところは助かったけどさ…俺が責任持って連絡させますってなんなの?私は会いたいなんて一言も言ってないのに!」

タバコをケースごと投げつけると、門倉はそれをキャッチしておかしそうに笑った。

「なんだよ。あいつにもそんな風にハッキリ話せばいいじゃん。“私は復縁するつもりはないよ”って。」

「復縁しようなんて言われてないから。門倉だって受付嬢に誘われた時は言葉濁してたじゃない。“おまえみたいな小娘なんざ興味ねぇよ”ってハッキリ言えば!」

門倉はケースからタバコを取り出してオイルライターで火をつけた。

「おまえね。あのおしゃべりな小娘にそんなことしたら大変なことになるぞ?次の日には社内に俺の悪評が知れ渡るだろ。」

「ふーん。いいこと聞いた。」

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