傷痕~想い出に変わるまで~
右腕を掴んで引っ張ると、門倉は思っていた以上に勢いよく立ち上がった。

その勢いに押され倒れそうになる私の体を、門倉の左腕が咄嗟に支えた。

不意に抱きしめられたような格好になり、至近距離に門倉の顔があることにドキッとした。

「あぶねぇな、大丈夫か?」

「だ…大丈夫だから。」

門倉の手が私の体から離れた。

それなのに抱き止められた時の大きな手の感触だけは私の体にしばらく残った。

門倉もやっぱり男なんだな。

あんなに軽々と私の体を抱き止めるんだから。

もし強引に抱きしめられりしたら、いくら逃れようとしてもきっと私の力なんかじゃ敵わないんだろう。

……って…。

いや、ないない。

門倉相手にそんなことがあるわけない。

近頃やけに門倉が私に触れる機会が多いから、ありもしないような妙なことを考えてしまうのか。

まさか私、欲求不満とかじゃないよね?

確かに光と別れてから誰とも付き合ってないし、別れる前もずいぶん長い間夫婦生活はほぼなかった。

だからって門倉相手にドキドキするとか有り得ない。

私、このままじゃ女としてまずいな。

枯れきってしまえばなんとも思わないのかも知れないけれど、私の中にはまだかろうじて女の部分が残っているらしい。

私もやっぱり門倉の言う通り、光とのことは何もかもハッキリ終わらせて新しい恋にでも踏み出すべきなのかも知れない。

そうすればまた純粋に誰かを想うことができるだろうか?





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