傷痕~想い出に変わるまで~
食事が済んで食後のコーヒーとデザートを堪能していると小塚がテーブルのそばにやって来た。

「お味の方はお口に合いましたか?」

「とても美味しかったです。予約を取るのが大変なお店なのに急に無理言ってすみませんでした。」

「いえいえ、ちょうどキャンセルされたお客様がいらっしゃったので、私共としましては大変有難いですよ。」

二人とも本性を隠して別人のような顔で会話している。

なんだか妙なものを見た気分だ。

「なかなか予約取れない店なの?」

「小さい店だからな。スタッフも少ないし、無理して予約をたくさん入れて料理とサービスの質を落とすわけにはいかないから。今日は急に予約キャンセルの電話があってすぐに岡見から連絡があってタイミングが良かったよ。」

「すごいラッキーだったんだ。今日来られて良かった。」

美味しい料理とワインを堪能して、懐かしい友人にも会えて。

ここは素直に、門倉と岡見に感謝だな。

「小塚さん、近いうちに岡見さんと一緒に篠宮と会って勝山さんのこと話してもらえませんか?」

門倉から突然思わぬことを頼まれた小塚はキョトンとして私の方を見た。

初対面の人間にこんなことを言われたら誰だって驚くに決まってる。

門倉が私とは同期でお互いに課長でバツイチ同士良き相談相手であることや、光と少し面識があることを手短に説明すると、定休日ならなんとかなると小塚が言った。

門倉はその日を聞き出し岡見には自分からお願いしておくと言って、今日のお礼を言って店を出た。


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