傷痕~想い出に変わるまで~
小塚は静かな口調で話し始めた。

「シノが毎晩遅くまで仕事してるからもうずっと一緒に寝てないし触ってないって。きっと俺と寝るのもイヤなんだなって言ってた。」

「うん…。」

「光は寂しかったんだ、結婚して一緒にいるのにまともに話すことも触れ合うこともできなくて。シノが遠い存在になったって。つらい時もシノに気付いてもらえなくて逃げ場が欲しかったんだと思う。だから…。」

「…浮気したってこと?」

小塚は“シノには酷な話をするけど”と前置きをして光が浮気をした経緯を話し始めた。

最初の会社を辞めてしばらく経った頃、光は買い物に出掛けたコンビニで偶然再会した高校時代の同級生の紹介で小さな工務店に再就職したらしい。

同級生の彼女には遠距離恋愛中の彼氏がいて、最初はマメに会いに来てくれたのにだんだんその頻度が落ち、ここ最近はもう2ヶ月以上も会っていないと相談された光は、自分も結婚生活がうまくいっていないと打ち明けたそうだ。

お互いを励まし合っていた二人がお酒の勢いを借りて、寂しさを埋めるために一線を越えたのはたった一度きりだったという。

「光は死ぬほど後悔してた。シノを裏切ってしまったって。」

私が光から聞いた話では、浮気のつもりが本気になって離婚後もその彼女と半年ほどは付き合っていたはずなのに。

その後、浮気の後ろめたさも手伝って私との夫婦関係は修復できないまま、光は悩み疲れていたそうだ。

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