傷痕~想い出に変わるまで~
「いや、そうじゃなくて…会ったら篠宮はまた…。」

休憩時間の終わりを告げるチャイムが喫煙室に大きく響き渡り門倉の言葉を遮った。

「やっぱり……せ…じゃ…ったな…。」

立ち上がって振り返ると門倉は少しためらいがちに目をそらした。

「ん?何?」

「いや…なんでもない。」

もしかしたら、また私が泣くんじゃないかって心配してくれてるのかな。

本当にお節介でお人好しなんだから。

「さぁ、早く戻らないと。」

私が促すと門倉はゆっくりと立ち上がり、私の頭をポンポンと軽く叩いた。

「禊が済んだらビールで乾杯してうまい焼肉食うんだろ。楽しみにしてるからな。」

「うん。」



8時半過ぎに残業を終えてオフィスを出た。

そのまま家に帰るときっとまたためらって電話しそびれてしまうような気がしたから、自販機でコーヒーを買って喫煙室に足を運んだ。

もう残っている者の数少ない社内は節電のために照明が落とされて少し薄暗く、喫煙室は真っ暗だった。

消灯しているのは誰もいないということだ。

コーヒーをこぼさないように喫煙室のドアをゆっくりと開け、入り口付近にある照明のスイッチを手探りで見つけて灯りをつけた。

椅子に座ってとりあえずタバコに火をつけた。

このタバコを吸い終わるまでに気持ちを落ち着かせよう。

無意識にいつもよりタバコを吸うペースが遅くなる。

コーヒーを飲みながら口の中で光に話す言葉を何度も呟いているうちに、気がつくとタバコはフィルターギリギリのところまで燃え尽きていた。


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