傷痕~想い出に変わるまで~
往生際が悪いな、私も。
タバコを灰皿の中に投げ入れ、ポケットからスマホと名刺を取り出して深呼吸した。
今度こそ電話を掛けよう。
いつまでも逃げ続けるわけにもいかない。
名刺に書かれた番号の数字をゆっくりとタップして、スマホを耳に近付けた。
鼓動がどんどん速くなるのを感じながら心の中で呼び出し音を数えた。
5つめまで数えた時、呼び出し音が途切れた。
「はい、勝山です。」
光の声が聞こえた瞬間、心臓が更に大きな音をたてた。
電話を切ってしまいたい衝動を抑えて、おそるおそる声を絞り出す。
「もしもし…。」
「…瑞希?」
耳に響くのはあの頃と変わらない、私を呼ぶ光の優しい声。
「うん…瑞希、です。」
「良かった…ありがとう、電話してくれて。」
「うん…。」
何度もシミュレーションしたはずなのに、用意していた言葉はなにひとつ私の口からは出てこない。
「えっと…。」
私がなかなかうまく話せないことに気付いたのか、電話の向こうで光が小さく笑うのが微かに聞こえた。
「瑞希、今どこにいるの?」
「会社…。」
「まだ仕事中?」
「これから帰るところ…。」
たどたどしい返事しかできなくてなんだか恥ずかしい。
「瑞希がイヤじゃなかったら…一緒に食事でもしようか。」
「……うん。」
20分くらいで着くから会社の前で待ってて、と言って光は電話を切った。
タバコを灰皿の中に投げ入れ、ポケットからスマホと名刺を取り出して深呼吸した。
今度こそ電話を掛けよう。
いつまでも逃げ続けるわけにもいかない。
名刺に書かれた番号の数字をゆっくりとタップして、スマホを耳に近付けた。
鼓動がどんどん速くなるのを感じながら心の中で呼び出し音を数えた。
5つめまで数えた時、呼び出し音が途切れた。
「はい、勝山です。」
光の声が聞こえた瞬間、心臓が更に大きな音をたてた。
電話を切ってしまいたい衝動を抑えて、おそるおそる声を絞り出す。
「もしもし…。」
「…瑞希?」
耳に響くのはあの頃と変わらない、私を呼ぶ光の優しい声。
「うん…瑞希、です。」
「良かった…ありがとう、電話してくれて。」
「うん…。」
何度もシミュレーションしたはずなのに、用意していた言葉はなにひとつ私の口からは出てこない。
「えっと…。」
私がなかなかうまく話せないことに気付いたのか、電話の向こうで光が小さく笑うのが微かに聞こえた。
「瑞希、今どこにいるの?」
「会社…。」
「まだ仕事中?」
「これから帰るところ…。」
たどたどしい返事しかできなくてなんだか恥ずかしい。
「瑞希がイヤじゃなかったら…一緒に食事でもしようか。」
「……うん。」
20分くらいで着くから会社の前で待ってて、と言って光は電話を切った。