もう寂しくなんてない
学校に行く準備をしていると、外から平日の朝特有の賑やかな声や音が聞こえてきた。
それを聞いていると、いつも嫌な方へと思考が持っていかれる…。
あぁ、私は独りなんだって。この広い家で、独りぼっちなんだって。
でも本当は、ちゃんと分かってる。私は愛されてるんだってことは。
―――私のお母さんは、私が物心つく前に病気で亡くなったらしい。だからお母さんのことは、殆ど憶えていない。唯一憶えているとしたら、すごく暖かな笑顔を浮かべる人というだけ。
お母さんが居なくても、私はそれでも良かったの。だって、お父さんが居るから。
でも、今お父さんはこの家には居ない。お父さんはプロのヴァイオリニストで、演奏家として世界中を忙しなく回っている。私はキョウダイもいないから、1人で家に居るのは当たり前になってるの。
それでも時間が出来た時は連絡をくれるし、家に帰って来た時は一緒に出掛けたり、話すこともよくする。私を家に1人で残していることも、心配してくれてる。
そして何より、お父さんが忙しく働いている理由の一つが私の為だってことを理解してる。せめて、お金だけには困らないようにしてくれているってことを。
だからお父さんから愛されてることは、ちゃんと感じてる。
感じてるからこそ、私は決めてるんだ。
いつも笑顔で居ようって。
「よしっ。今日も1日頑張ろう!」
そう言いながら微笑み、言葉にすることで少しでも明るくなるようにして。
「行ってきま~すっ」
誰も居ない家の中に向かって私はいつものように挨拶し、学校に行くため家を出た。