鬼上司は秘密の恋人!?
石月さんは小さく笑って視線をそらし、ダイニングテーブルを見て目を見開いた。
私の顎から手を離し、立ち上がる。
「なんだこれ」
そこに並んだたくさんの料理を見下ろし、眉をひそめながらこちらを振り返った。
「祐一と一緒に用意したんです」
私がそう言うと、石月さんは微かに首を傾けてこちらを睨む。
「今日、祐一の誕生日だったので」
石月さんは私の言葉に大きく息を吐き出し、もう一度ダイニングテーブルの上を見る。
豚の角煮、茶碗蒸し、揚げ出し豆腐、イカと大根の煮物、具沢山の豚汁、アボカドが入ったポテトサラダ。
ひとつひとつの皿に視線を走らせ、戸惑ったようにこちらを見た。
「俺の好物ばかりだ」
「祐一が幼稚園で、誕生日は五歳になっておめでとうの日だって意味もあるけど、今まで育ててくれてありがとうって周りの人に感謝する日でもあるんだよって教えてもらったみたいで、石月さんにありがとうを言いたいから、石月さんの好きなものをいっぱい作ってあげてって言われて」
私がそう言うと、石月さんは大きく息を吐き出し額に手を当てた。
「言えよ、最初から……!」
苛立ったように吐き捨てて、落ち着きなく体を揺らす。
長い足を持て余すようにうろうろと数歩歩いてから、もう一度大きく息を吐き出した。