鬼上司は秘密の恋人!?
「すいません。言っても、お仕事の邪魔になるかと思って」
「確かに知ってても、帰ってこられるような状況じゃなかったけど、でも……」
早口にそう言って、悔しげに言葉をつまらせる。
「お前らはほんとに……」
「『鬱陶しい』、ですか?」
私が続けると、石月さんは驚いたようにこちらを見た。
目を見開き私を見て、視線をそらす。
そして頷いた。
「そうだな。本当に鬱陶しい」
「……すいません」
石月さんが息を吐き出す音が聞こえた。
呆れられているんだろうと、胸が痛くなる。
勝手に好物を用意して、勝手に期待して、寂しがるなんて、石月さんにとってみたら、いい迷惑だろう。
「前に、俺は父を早くに亡くしたって話をしただろ」
そう言われ、驚いて顔を上げた。そんな私の視線に、石月さんが小さく笑う。
ダイニングテーブルによりかかるように浅く腰をかけ、天井を仰ぐ。
「母は父が亡くなってから悲しみを誤魔化すように仕事に打ち込むようになって、俺はシッターに育てられたようなもんだった。料理も掃除も苦手な女で、母の手料理なんて食べた記憶はほとんどない」
「恨んでるんですか……?」
「感謝はしてるけどな。一度も恨んだことがないといえば、嘘になる」