鬼上司は秘密の恋人!?
「今日、帰りが遅くなった埋め合わせに、次の休みどこかに行くか」
「どこかって、どこですか?」
「動物園でも、映画でも、海でも。お前とチビが行きたいところなら、どこでも」
優しい視線、からかうような甘い口調。
ソファの横で立ち尽くす私の前まできた石月さんは、優しく笑った。
「……やだ」
胸が苦しくて、かろうじてそれだけ言う。
そしてまるで子供みたいに顔をそらして口をつぐんだ。
「やだ?」
そらした私の顔を覗き込みながら、石月さんが甘く問う。
「……幸せに、慣れさせないでください」
私がそう言うと、石月さんは首を傾げた。
「そうやって私を甘やかさないでください。今まで祐一とふたりで平気だったはずなのに、気づいたら一晩石月さんがいないだけで寂しいと思ってしまうくらい我が儘になっていて、どうしたらいいのか、わからないです……」
言葉の途中で石月さんの指が伸びてきた。長い指が顎をすくいあげ、必死に顔をそらした私に正面を向かせる。
「別に、もっと我が儘になればいい」