鬼上司は秘密の恋人!?
 

「いやぁ、こういうところで雑誌が作られるんですね。さすが活気がある」


よく通る大きな声が編集部に響く。
人に聞かれることを意識した、訓練された声。
編集長の隣では、紺のスーツを着た三十代後半の男の人が、楽しそうにフロアを見回していた。

「みなさん、お忙しそうですね」

白い歯を見せる笑い方に、選挙ポスターと同じ笑顔だとぼんやりと思う。
参議院の若手議員。
宮越一彦。
配られた名刺を見下ろして、心の中で名前を読み上げてみる。

「いえ、政治家の先生よりは忙しくないと思いますよ」

そう嫌味を込めて返すのは、石月さん。
整った顔に笑顔を浮かべ、でもその裏では『こっちが忙しいのを分かってんなら、仕事の邪魔しに来んじゃねーよ』なんて思ってるのが伝わってくる。

ふたりとも背が高くてスタイルがいい。
そんなイケメンふたりが対峙しているだけで、妙な迫力がある。

「こちらが先日のインタビューのゲラになります。どうぞ」

徳永さんがそう言って、書類を宮越議員に手渡した。
嬉しそうにそれを受取り、大きく目を開く宮越議員。
背筋の伸ばし方、腕の動かし方、眉の上げ方。
仕草のひとつひとつまで、常に人の視線を意識している感じがする。
どこか芝居めいた爽やかな笑顔。
人に見られる職業なんだとぼんやりと思った。
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