鬼上司は秘密の恋人!?
「冷てぇな。俺のだけハートが入ってないなんて」
「トーゴかわいそう」
ふくれっつらの石月さんの足に、祐一がしがみつく。
「ねぇ、ゆき。トーゴのもハートにしてあげて」
石月さんとトーゴにみつめられ、私は思わず黙り込む。
しばらく口をつぐんでいたけど、ふたりの視線に耐えきれず、大きくため息を吐き出した。
「わかりました。ハートにすればいいんですね!?」
真っ赤になりながらそう言うと、石月さんは肩を揺らし喉の奥で笑う。
ただからかわれてるだけだってわかってるのに、動揺してしまうのが悔しい。
「よかったね、トーゴ」
「あぁ」
無邪気に笑う祐一を抱き上げながら窓の外を見た石月さんが、急に顔を曇らせた。
なんだろうと不思議に思い、私も顔を上げると、窓の外を一台の黒塗りの車が通り過ぎて行くところだった。
険しい顔でその車が走り去った方を見つめる石月さんに、「どうかしましたか?」と声をかける。
「いや……」
石月さんはそう言葉を濁しながらも、なにか考えているようだった。