鬼上司は秘密の恋人!?
 



「どうした。なんか機嫌が悪いのか?」

そう問われ、飛び上がる。
恐る恐る振り返ると、ダイニングテーブルでひとり遅い夕食を取っていた石月さんがこちらを見ていた。

「い、いえ……」

慌てて首を横に振り視線をそらす。
祐一はもう寝てしまい、ふたりきりの空間が気まずくてしかたない。
そんな挙動不審な私に、石月さんは小さく首を傾げ、お味噌汁の入ったお椀に口をつける。
形の良い唇が微かに開き、舞茸と油揚げのお味噌汁をすする。
ちらりとその様子を盗み見て、慌てて背を向けた。

……どうしよう、石月さんのことを直視できない。

あの唇が私のおでこにキスをした、なんて想像したら、体中の血液が頭にのぼってクラクラしてしまう。

きっと祐一の見間違いだ。
あの石月さんが眠っている私にキスをするわけなんてない。

そう何度も自分に言い聞かせても、意識せずにはいられない。
あの唇の温度を、柔らかさを、何度も想像しては、恥ずかしい想像に自己嫌悪に陥る。

「……もうやだ」

両腕で顔をかくしそうつぶやくと、「なにが?」と背後で囁かれた。

「ひゃ!」

至近距離で響いた声に驚いて、また飛び上がる。

「なんかお前、今日変だぞ」

石月さんはあきれたようにそう言って笑った。

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