鬼上司は秘密の恋人!?
 
「味噌汁まだある?」

石月さんが空になったお椀を持っているのに気づき、ぶんぶんと首を縦に振って頷きながらお椀を受け取った。

「きのこが入った味噌汁ってはじめてだけど、うまいな」

お椀にお味噌汁をつぐ私を見ながら、石月さんがそう言う。

「本当ですか? よかった。石月さんはなにを作っても美味しいって食べてくれるから嬉しいです」
「外食ばっかりしてると、きのこなんてわざわざ選んで食べようと思わないから、こんな味と香りなんだなって驚いた」
「じゃあ今度きのこの炊き込みご飯作りますよ。舞茸とかしめじを一度干してから炊き込みご飯にすると、すごく香りが出て美味しいんですよ。甘めに煮た鶏肉も入れて、三つ葉をちらしたりして」

私が話す様子を、石月さんは優しい表情で見ていた。
その視線がくすぐったくて、慌ててうつむく。
髪の間からのぞく耳がやけに熱くてさりげなく手で隠すと、石月さんは小さく笑った。
そして長い指が私の髪に触れた。
なんだろうと思って見上げると、その指先には小さな色紙の切れ端があった。

「髪についてた」
「あ。今日祐一が色紙を切って遊んでたから……」

桜の花弁のような、薄い桃色の小さな紙。
その色紙からちらりと視線を上げこちらを見た石月さんは、優しく笑った。

その視線が甘くて、どうしていいかわからなくなる。
人を好きになりすぎると、こんなに心が苦しいなんて、初めて知った。



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