鬼上司は秘密の恋人!?
「そんなに警戒しなくても、大丈夫ですよ」
相手の緊張をほぐそうなんて少しも考えていない、感情のない声でそう言った。
眼鏡の奥の瞳が、ぞっとするほど冷たかった。
「話は簡単です。あの家を、出てください」
唐突にそう言われ、驚いて顔を上げる。
「あの家……?」
意味がわからず繰り返すと、長尾さんが無表情のまま頷いた。
「そう。あの週刊誌の記者の家です」
「週刊誌の記者……」
「あぁ、今は雑誌の編集者、ですか。まぁ、どちらでもいいですが」
言外に、石月さんへの敵意を感じて肌が粟立つ。
「なんで、そんなことを、あなたに言われないといけないんですか?」
きっと顔を上げて睨んだ。
しかし私の視線なんて無力だというように、長尾さんは表情ひとつ変えることなく口を開く。
「なんでって、私が宮越の秘書だからですよ」
「どういう意味ですか?」
「ご存じないんですね」
「なにを?」
「祐一くんの、父親ですよ」
「……は?」
「宮越が、祐一くんの実の父です」
そう言われ、目を見開いた。
膝の上に置いた手が、震えた。
宮越議員が祐一の父。
ということは、由奈の恋人だったのか。
選挙ポスターに印刷された、白い歯を見せた笑顔を思い出す。
誠実で清潔感あふれる、自信に満ちた笑み。
あの人が……。