鬼上司は秘密の恋人!?
「なんで、今更……! 由奈が妊娠したのに、結婚も認知もしなかったのに! 由奈が死んだときもなんの連絡もしなかったのに! なんで今更やってきて、あの家を出ろだなんて……!」
「仕方ないでしょう」
声を荒げた私に、長尾さんは落ち着きを払ってそう言う。
「宮越と由奈さんが付き合いはじめたのは、宮越が参議院で初当選した直後でした。十以上も年下の、しかも身寄りのない女性とお付き合いをしているなんて、新人議員にとってマイナスにしかならない。宮越は若さと清潔感で売ってる議員でしたし。年下の恋人のことが明らかになれば、女性の支持層は確実に離れる」
「だから、別れさせたんですか? お腹に子供がいたのに!?」
「妊娠を知ったのは、宮越と別れたあとです。由奈さんが事務所に相談に来られたので、産まれると困ると、私がきちんとお伝えしたはずですが」
「じゃあ、宮越さんは、知らないんですか!?」
「知る必要はないでしょう。知ったって、結論はかわりません」
「そんな……、人の命をなんだと思ってるんですか……!?」
ガタンとテーブルに手を付き、身を乗り出す。
妊娠を知って、由奈がどれだけ心細かったか。
実の父親に直接相談することもできず、ただ事務的に堕ろせと言われて。
そのときの由奈の気持ちを想像して、怒りで震えた。