鬼上司は秘密の恋人!?
子供の父親に頼らずに産むことを決め、必死で由奈は生きてきた。
狭いアパートに私と由奈のふたりで暮らし、少しずつ大きくなる温かいお腹をふたりでそっとなでた。
小さな命がぽこんと動いたときは、手を取り合ってはしゃいだ。
白黒のエコー写真を眺め、そこに写った緩く握られた手のひらをそっと指でなぞった。
はやく出ておいで、はやく会いたいよ。小さな手を握って、柔らかい頬にキスをして、たくさん抱っこして、心から愛してあげるんだ。
大きなお腹にそう語りかけて、笑いあった。
そうして生まれた祐一。
その生命を、自分の都合でいらないと切り捨てるなんて、とてもその神経が信じられない。
「てっきり堕ろしてくれたものだと思っていたのに、産んでいたなんて知りませんでしたよ。そして亡くなっていたなんて。先日編集部で由奈さんにそっくりな有希さんをお見かけして、ふと気になって調べたんです。もっと早く確認するべきでした」
「祐一を、どうするつもりですか?」
「こちらで面倒みましょう。そちらも経済的に困っていたようですし、都合がいいでしょう?」
厄介事を片付けるような言い方に、神経を逆なでされる。
「色々調べさせていただきました。一年前に由奈さんを亡くし、数か月前にすんでいたアパートが火事で全焼。今は頼るあてがなく、上司である石月さんのもとで暮らしてらっしゃるんですね」
興信所かなにかを使って調べ上げたんだろう。手元にある資料に目を落とし、読み上げる。