鬼上司は秘密の恋人!?
「悪い。そんなの俺がとやかく言う筋合いねーけど……」
背の高い石月さんのうなじを見下ろす。
少しクセのある黒い髪。
白く長い首筋。
首のつけ根に浮かぶ硬そうで綺麗な骨の形。
髪をかきむしる長い指とか、贅肉のついていない広い肩とか、彼のひとつひとつが、ものすごく好きだと思ってしまう。
「なぁ、白井……」
かすれた声で私の名前を呼んだ。
私の手首を掴む指に力が入る。
反対の肘をテーブルに付き、俯いていた視線がゆっくりとこちらに向いた。
黒い髪の間から、綺麗な瞳が私を見上げる。
「……いい加減、好きすぎて辛いのって、俺だけ?」
試すように、そう言った。
こちらを見上げる、熱のこもった甘い視線。
驚いて息を飲む。
咄嗟に後ずさろうとしたけれど、強く手首を掴まれ動けなかった。
石月さんが、私を好き……?
信じられなくて、何度も瞬きをする。
「お前、驚きすぎだろ」
そんな私を見て、石月さんが小さく笑った。
「だって、石月さん、恋人なんていらないって……」
動揺で震える声でそう言うと、石月さんが口を開く。
じっとこちらを見上げながら。
「前まではそう思ってた。一生ひとりで生きていくんだと思ってた。でも、お前たちと暮らして思い知らされた。隣に誰かがいてくれることが、どれだけ幸せかってことを」
その言葉に、胸が震えた。
嬉しくて、切なくて、悲しくて、どうしていいのか分からなくて、ただただ必死に涙をこらえた。