鬼上司は秘密の恋人!?
「はい、ママ。おみずです!」
朝、祐一はいつものように由奈の写真の前に水が入ったコップを置き、手を合わせる。
「いってきます!」
そう言って毎朝元気にアパートを出る。
外の寒さに驚いてふたりで小さく飛び跳ねる。
手を繋いでアパートの外階段を下り終えた祐一が、道路のアスファルトの隙間に生えたシロツメクサの葉を見て「あ!」と声を上げた。
「ゆき、はっぱがしろい!」
小さな丸い葉が三つ寄り添うシロツメクサの葉。その上を白く半透明の小さな霜が覆っていた。
「本当だ。寒いと思ったら、霜が下りてる」
「しも?」
葉っぱを指差す祐一の隣にしゃがみこんでそう言うと、祐一は不思議そうに首を傾げた。
「寒いとね、空気の中の水分が葉っぱにくっついて、小さな氷の結晶になるの」
「ふーん?」
祐一は目をぱちぱちさせながら、砂糖菓子みたいな淡い氷の結晶を纏う緑色の葉に触れる。
祐一の体温に、霜があっという間に溶けて緑の葉を濡らした。
「あめだまみたいだね」
「飴玉?」
祐一は濡れた自分の指先をみつめ、白い息を吐きながらそう言う。
「まえにトーゴがくれた、ガラスのびんに入ったおさとうがついた丸いあめだま。レモン味とソーダ味とブドウ味と、ほかにもいっぱいあっておいしかった」
不意に祐一から出た石月さんの名前に、思わず息をのむ。
なんとか平静を装い深呼吸をして笑った。