鬼上司は秘密の恋人!?
その日、祐一を保育園に迎えに行く途中に、偶然徳永さんに会った。
眼鏡の奥の目が私をみつけて大きく見開き、でもすぐに優しく弧を描いた。
たった数週間ぶりなのに、懐かしいと感じてしまう、徳永さんの柔らかな笑顔。
「白井さん、元気そうだね」
突然仕事を辞めた私に、嫌味も文句も言わずに、そう言って笑ってくれた。
「徳永さん……。お久しぶりです、すいませんお世話になったのに、いきなり仕事を……」
慌てて頭を下げた私を手で制して首を横に振る。
「いいよ、謝らなくて。なにか理由があったんでしょう?」
「すいません」
その理由すら言えない自分が歯がゆくて、唇を噛む。
「偶然この辺を通ったんだけど、会えてよかった。みんな白井さん元気かなって気にしてたから」
そう言われもう一度ぺこりと頭を下げる。その様子を見た徳永さんが、眼鏡を押し上げながらクスクス笑った。
「ステートメントのみなさんは元気ですか? 連載の執筆者の方とか、広告の契約とか、なにか問題あったりしませんか?」
「一時期広告主が契約を渋ったことがあったけど、その後は別になんの問題もないよ」
徳永さんの言葉を聞いて、ほっと胸をなでおろす。
私がきちん言うことを聞けば、長尾さんも約束を守ってくれるんだと安心してため息をついた。
「それより、石月チーフが前以上に横暴になって大変だけどね」
「え!?」
びっくりして顔を上げると、徳永さんがうんざりした様子で笑う。