鬼上司は秘密の恋人!?
 


その日、祐一を保育園に迎えに行く途中に、偶然徳永さんに会った。

眼鏡の奥の目が私をみつけて大きく見開き、でもすぐに優しく弧を描いた。
たった数週間ぶりなのに、懐かしいと感じてしまう、徳永さんの柔らかな笑顔。

「白井さん、元気そうだね」

突然仕事を辞めた私に、嫌味も文句も言わずに、そう言って笑ってくれた。

「徳永さん……。お久しぶりです、すいませんお世話になったのに、いきなり仕事を……」

慌てて頭を下げた私を手で制して首を横に振る。

「いいよ、謝らなくて。なにか理由があったんでしょう?」
「すいません」

その理由すら言えない自分が歯がゆくて、唇を噛む。

「偶然この辺を通ったんだけど、会えてよかった。みんな白井さん元気かなって気にしてたから」

そう言われもう一度ぺこりと頭を下げる。その様子を見た徳永さんが、眼鏡を押し上げながらクスクス笑った。

「ステートメントのみなさんは元気ですか? 連載の執筆者の方とか、広告の契約とか、なにか問題あったりしませんか?」
「一時期広告主が契約を渋ったことがあったけど、その後は別になんの問題もないよ」

徳永さんの言葉を聞いて、ほっと胸をなでおろす。
私がきちん言うことを聞けば、長尾さんも約束を守ってくれるんだと安心してため息をついた。

「それより、石月チーフが前以上に横暴になって大変だけどね」
「え!?」

びっくりして顔を上げると、徳永さんがうんざりした様子で笑う。
< 159 / 199 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop