鬼上司は秘密の恋人!?
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石月さんと電話で話した数日後。
私と石月さんと、そして秘書の長尾さん。
いつか来た料亭の個室で、私たち三人は向かい合っていた。
並んだ私たちを見て、長尾さんは眼鏡の奥の目を細め、呆れたようにため息をつく。
「有希さん。どういうことでしょう」
約束が違いますが? というように、冷たい目でこちらを見る。
その視線に怖気づきそうになったけれど、ぐっと背筋を伸ばした。
「突然お呼び立てしてすいません。どうしても、長尾さんとお話がしたくて」
祐一が保育園に行っている時間に、長尾さんに連絡をしてこの場所に来てもらった。
『話をつけたいから長尾さんを呼び出してくれ』と石月さんに頼まれた時は、そんなことをしたらまた雑誌にいやがらせをされてしまうんじゃないかと心配したけれど、石月さんは絶対大丈夫だと言い切った。
石月さんが一体どうするつもりかわからないまま、私は長尾さんを呼び出した。
約束の時間通りに個室に入ってきた長尾さんは、私の隣に石月さんの姿を見つけ、苛立ったように一瞬眉をしかめたけれど、すぐに平静を取り戻し涼しい顔で席についた。
相手に動揺や弱みを極力見せないポーカーフェイス。
さすが、長年議員の秘書を努めているベテランだと思ってしまう。
「……白井を口止めした割に、ワキが甘すぎませんが、宮脇議員の政策秘書さん」
私の隣に座っていた石月さんは、おもむろにそう言って薄く笑った。
敢えて長尾さんの名前は呼ばず、からかうように秘書さんと呼ぶ。
その言葉に、長尾さんの眉がぴくりと動いた。
「事務所名義の黒塗りの車でウチの家や幼稚園の周りをウロウロ嗅ぎ回って、こちらが気づかないとでも? 議員周りの車のナンバーなんて、政治担当なら完全に把握してますよ」
石月さんの言葉に、長尾さんは顔色ひとつ変えずに黙り込んだままだった。