鬼上司は秘密の恋人!?
 
「年が離れているから、家柄が合わないから。なんて古臭い理由だけで、そこまでムキになるとは思えない。むしろ両親を亡くしたばかりの由奈さんと、亡き父の後をついで政治家になった宮越さん。ふたりが手を取り合うなんて、宮越さんを支持する有権者層が好きそうなドラマティックな話なのに」

そうでしょう? というように、石月さんが長尾さんを見やる。
しかし長尾さんは口を引き結んだまま、なにも言わなかった。

「じゃあなぜ引き離した。どうして由奈さんと宮越さんとの交際を、公にしたくなかった」

黙り込んだ長尾さんが口を開かないことは分かっていて、それでも石月さんは問いかけるように言う。

「後ろめたかったからですよね。『辻立ちの王子様』が、あなたがお膳立てした作られたものだったとは、知られたくなかったからだ」
「辻立ちの王子様……?」

そういえば、前に徳永さんがそんなことを言っていた。
参院選の期間中に撮られた宮越さんの写真がSNSで広がって、それで当選したんだと。

「白井、宮越一彦で検索してみろ。すぐに画像が出てくるから」

首を傾げていると、石月さんにそう言われた。
スマホを取り出して検索してみると、街頭演説中の宮越さんの画像が出てきた。

背後に立つたくさんののぼり。
大きく名前の書かれた選挙カー。
頭に揃いの鉢巻をまいた支援者たち。
その中に道に倒れ込んだ女の人と、地面に片膝をつき彼女の手を取り立ち上がらせようとする宮越さん。

取り囲む人々の中心で、まるでお姫様を助けに現れた王子様の姿のようだった。
宮越さんを見上げる女性の目元は、プライバシーを守るためか黒い四角で隠されていたけど、すぐに分かった。

これは由奈だ。

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