鬼上司は秘密の恋人!?
 
そんな私にお構い無しで、蜂谷大臣はぺたぺたと千鳥足で歩きだす。
その後を店に控えていた秘書らしき人がついていく。

「そういえば、お前のとこの政治担当から聞いたが、澄川の代表が背任で捕まった時、真っ先に雑誌のインタビューを差し替えると言ったのは、お前らしいな」

歩きながら、ちらりと石月さんのことを見やる。
その視線に石月さんは静かに頷いた。

「もったいないと愚痴っていたぞ。もっと狡猾にうまくやれば、話題を集めて売上を伸ばす方法もあったのにって」

蜂谷大臣の言葉に、石月さんは苦笑する。
きっとほかの部署の人にも、同じようなことを言われたことがあったんだろう。

「私はお前のその青臭さが、嫌いじゃないけどな。……でも、政治家にはむかん。もちろん政治家の秘書にもな」

そう言った蜂谷大臣の前に、黒塗りの車が到着した。
秘書の人が横に並び、後部座席のドアを開ける。

「そのうちお前のことの親父さんの仏壇に、線香でもあげに行くかな」

そう言って車の中に乗り込むと、にやりと笑って手を上げた。

「お待ちしています」

石月さんが深く頭を下げる。
その前でバタンと音をたて、ドアがしまった。
走り去る黒い車を、呆然と見送る。

車の影が見えなくなってからもしばらく動けず立ち尽くしていると、ぷっと石月さんが吹き出した。

「すっげぇ馬鹿面」

固まった私の表情を見て、そう笑う。

「ひ、ひどい……!」

慌てて両手で顔を覆った。

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