鬼上司は秘密の恋人!?
 

からかわれたんだと私がふくれると、まっすぐにこちらを見る石月さん。

「有希」

私の名前を呼んだ石月さんの、その真剣な表情に、思わず息を飲む。

「あ、石月さん。今日は本当に、ありがとうござい……」

戸惑いながら頭を下げると、乱暴に肩を引き寄せ抱きしめられた。

「だから、そういうのは鬱陶しいんだっつうの」
「鬱陶しいって……、相変わらずひどいです」

身動きをとれず、視線だけをあげてふくれっ面で石月さんを見上げると、石月さんは小さく肩をあげこちらを見下ろす。
伏せた目が、私を見つめ優しく弧を描く。

「じゃあ、鬱陶しいじゃなくて、愛おしいか」

そう言われ、こらえていた想いが溢れ出した。
今までずっと恋愛感情を堰き止めていた理性が決壊して、涙と一緒に嗚咽が漏れる。

「い、しづきさん……」

どうかこれが夢じゃありませんように。
そう思いながら石月さんの肩にしがみつく。

この想いは叶わないと思っていた。
もう二度と会えないんだと覚悟していた。
だけど、石月さんは迎えに来てくれた。

嬉しくて、子供みたいに石月さんの胸にすがる。
すると石月さんは私の背中を優しく撫でながら口を開いた。

「今日、チビ迎えに行くの、何時?」

低い声でささやくように問われ、頭に血が上る。

「ええと、仕事のある日は五時から六時の間に……」
「じゃあ、まだ時間あるな」

そう言って、私の手を取った。

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