鬼上司は秘密の恋人!?
 
「じゃあ、俺が抱き上げてつれてく」

そう言って、私の体を抱き上げると、ずんずんと部屋の中に進む。
狭いけれどがらんとしたアパートの中を見渡して、「なにもねぇな」とつぶやいた。

「ソファもベッドもないんだな」

部屋に敷かれたラグと、その上に置かれた折りたたみの小さなテーブル。
あとはテレビくらい。
生活感のないガランとした寂しいリビング。

「すいません」
「寝るときはどうしてんの?」
「奥の押し入れにお布団が」

石月さんの首にしがみつきながらそう言うと、床に敷いたラグの上に押し倒された。

「きゃ……」

突然床に下ろされ驚いて声をあげると、私の上に覆いかぶさる石月さんが薄く笑った。
これからここでなにが起こるのか、想像して頬が熱くなる。

「あの、布団とか……」

恥ずかしさにじたばたともがきながらそう言うと、石月さんは「無理」と短く言い放ち、自分が着ていたジャケットを脱ぎ落とす。

「もう待てない」

感情を振り絞るように、吐息だけでそう言われた。

「ずっと、触りたかった。こうやって」

長い指が私の額をなぞり、まぶたに触れる。
耳たぶをくすぐり、首筋を通って鎖骨に触れた。
誰にも触れられたことのない肌の上を、石月さんの指が這う。

「……やだ?」

上目遣いでそう問われ、唇を引き結んだまま、首を横に振る。

「や、じゃないです……」

真っ赤な顔でなんとかそう言うと、石月さんは顔をくしゃっと歪めて笑った。
嬉しくてたまらない、子供みたいな表情で。

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