鬼上司は秘密の恋人!?
祐一と手をつなぎ、幼稚園までの道を歩きながら、時々ちらりと私達のおうちを振り返る。
「なんだか、あの家に戻ってこられたなんて、夢みたいだね」
祐一とふたりでここを出たときは、もう二度と戻れないんだと思ってた。
石月さんとも、もう会えないんだと覚悟してたのに。
小さくなっていく家をみながらつぶやいた私に、祐一はきょとんとして首を傾げた。
「ぼくは、ぜったいまたもどってこれるって、わかってたよ」
「どうして?」
その確信めいた口調に、不思議に思ってたずねてみる。
「だって、おうちをでていくとき、トーゴがぼくだけにこっそりいったんだ」
祐一はそう言って胸を張った。
「『ぜったいむかえにいくから、おまえはずっとそばにいてゆきのことをまもってやれ』って。いつかトーゴがきてくれるってわかってたから、さみしくてもなかなかった。ゆきが泣かないように、笑ってようってがんばった」
その言葉に驚いて顔を上げる。
慌てて来た道を振り返ると、玄関の引き戸にもたれかかった石月さんが、こちらを見て苦笑した。
いい加減さっさと行けという仕草をして、笑いながら家の中に入っていった。
閉められた引き戸を眺めながら、泣きそうになる。
誰にも頼らず、ひとりで祐一を育てていくつもりだった。
祐一を守り、石月さんに迷惑をかけないように、自分ひとりで頑張ろうと思ってた。
だけど、私は守られていたんだ。
石月さんにも、祐一にも。
ぐっと胸が苦しくなって、祐一の前にしゃがみ込み、その小さな体を抱きしめた。
「ありがとう、祐一」
「うん」
小さな手が、私の首にまわる。
冷たいほほをすり合わせ、笑いあった。