鬼上司は秘密の恋人!?
 
「有希」

祐一に呼びかけるときとは違う、ひそやかな甘い声色で私の名前を呼ぶ。
私が振り向くと、視線が合う。
石月さんは微かに首を傾げ、ゆっくりと瞬きをした。

「それからもうひとつ」

そう言って、私の左手を取る。
掴んだ私の手を見下ろしながら、くすぐるように指をなぞる。

そして、石月さんはポケットからなにかを取り出した。
コートのポケットの中に無造作に入れられた、なにか。

それを私の左手の薬指に近づけ、手を止めた。
上目遣いに私を見て、甘く問う。

「俺も家族になってもいい?」

その石月さんの手にした物を見て、私は息を飲んだ。
小さなダイヤが付いた、キラキラと光る銀色の指輪。

石月さんは私の動揺に小さく笑い、答えをねだるように私の手を握る指に力を込める。
なんとか口を開いたけれど、胸がいっぱいで言葉にできなくて、私は口を覆って何度も首を縦に振った。

息を吐いて石月さんが笑う。
そして私の左手の薬指に指輪が通される。
その綺麗な指輪は、私の薬指にぴったりと収まった。

そして視線をあげ、こちらを見つめる。

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