鬼上司は秘密の恋人!?
 

「別に怖い顔してませんよ」

私を横目で眺めながら、野辺編集長の言葉に反論する石月さん。

思いっきり、怖い顔、してますよ。ただでさえ整った綺麗な顔が近寄りがたい印象なのに、不機嫌そうに寄せられた眉間のシワや、乱暴な口調、そして驚くほど大きな態度。ひとつひとつに迫力があって怖すぎます。

私はこっそり心の中でそう思う。

「前の仕事は事情があって辞めてしまいましたが、今日から一生懸命がんばるので、よろしくお願いします!」

怖気づく自分を叱咤するように、ぎゅっと手のひらを握って、深く頭を下げた。
視界に写った自分の膝が、緊張で少し震えていた。それを悟られないように、必死に足に力を入れて踏ん張る。
そのまま頭を下げ続けていると、頭上から大きなため息が降ってきた。

「あー、わかったよ。……徳永ァ」

目の前の男は諦めたように頭を掻きながら、誰かの名前を呼ぶ。

「はい、石月チーフ」

呼ばれてすぐにやって来たのは、眼鏡をかけた二十代後半くらいの優しそうな男の人。

「こいつ、今日から入った契約社員だって。仕事教えてやって」
「はい」

了解ですと頷いて、徳永さんが私の方を見る。
慌てて「よろしくお願いします!」と頭をさげる。

「頑張ってね、白井さん。なにか困ったことあったらいつでも相談に乗るから」

頭をあげると野辺編集長に優しい言葉をかけられて、「ありがとうございます」とまた深く頭を下げた。

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