鬼上司は秘密の恋人!?
勢いよくお辞儀を繰り返す様子が面白かったのか、私を見ていた徳永さんに小さく笑われてしまった。
「じゃあこっちに来て、俺の隣に開いてる席があるから」
徳永さんは笑いをこらえるように小さく肩をゆらしながら、そう言って歩き出す。
視線の先には物が乱雑につまれたデスク。まず一番の仕事は、あのデスクの上を片付けることかな。
なんて思いながら、デスクに頬杖をついて不機嫌そうにこちらを見つめる石月さんに向かってぺこりと一礼してから徳永さんのあとを追おうと踵を返す。
すると後ろから声をかけられた。
「白井」
「はいっ!」
私の名前、ちゃんと覚えてくれたんだ。
さっきから『こいつ』としか呼ばれてなかったから、自分の名前を呼ばれたことに少し驚きながら振り向く。
「……お前、いちいち力むな。鬱陶しい」
目も合わせずそう言い捨てられ、思わずぽかんとしてしまった。
鬱陶しいって……、部下とはいえ初対面の相手にいきなりそんなきついこと言わなくてもいいのに。
驚いて口を開いたあと、ワンテンポ遅れて怒りがじわじわ湧いてくる。
「そうだ、石月くん。白井さんはちゃんと定時で帰してあげてね」
「定時ィ?」
編集長の言葉に、石月さんが舌打ちをするのが聞こえた。
「忙しいとは思うけど、そういう条件で働いてもらう約束だから」
「いいご身分だな」
棘のある言葉に恐る恐る石月さんの様子を伺うと、持っていた書類を机の上に放り投げるところだった。
細かな文字が書き込まれた、私の顔写真入りの履歴書がはらりと落ちていくのが見えた。
「まぁ、時間内にちゃんと仕事すんなら文句はねぇけどな」
『どうせすぐ辞めるんだろ』そう言いたげな冷ややかな視線で見られ、私はぐっと歯を食いしばった。