鬼上司は秘密の恋人!?
「ゆきがいってたんだ。いじわるなひとがひとりいるって」
「祐一、ちょっと……」
「トーゴもそのいじわるなわるいやつに、いじめられたりするの?」
心配そうに石月さんの顔を見る祐一。
私は仕事をはじめた初日に言ったことを覚えていたんだ。
祐一の言葉に青ざめて慌てる私を見て、石月さんは誰がその『いじわるなひと』かを察したように、横目でこちらを睨む。
「ゆきをいじめるやつは、ぼくがせいばいしてやるんだ!」
真剣な表情でそう言った祐一に、石月さんは「ぶはっ」と声を上げて吹き出す。
「んだよ成敗って。俺は鬼かよ」
ゲラゲラ笑いだした石月さんに、祐一は不思議そうな顔をしながら振り落とされないように揺れる体にしがみつく。
「いや、けっして、石月さんが鬼とかいうわけでは……」
慌てて言い訳をしようとする私に、石月さんは涙をぬぐいながら首を横に振った。
「別に気にすんな。好かれるよりずっといい」
「え?」
石月さんの言葉に首を傾げると、「あー、腹減った」とつぶやかれた。
続いて祐一も「ぼくもー」と声を上げる。
「あ、急いで支度しますね!」
慌ててキッチンに戻ると、石月さんと祐一は畳の上でごろごろしながらこちらを見ていた。