鬼上司は秘密の恋人!?
一緒にくらしはじめてみて、石月さんの面倒見のよさに驚いた。
仕事中はあんなに冷たくて口が悪いのに、祐一に対しては素っ気なくあしらっているように見えて、実はいつもちゃんと相手をしてくれている。
普段は横暴で俺様なくせに、野良猫に餌をあげたり、子供には優しかったり。
なんだかずるい。
そう思いながら、仕事中には見せない穏やかな横顔をぼんやり眺める。
「石月さん」
「んー?」
私が名前を呼ぶと、祐一の白いほっぺたを容赦なくつねりながら、生返事をかえす石月さん。
「さっき言ってた、好かれるよりずっといいって、どういう意味ですか?」
私が聞くと、視線がこちらに流れてきた。
祐一に向けるもとはまるで違う、冷たい視線。
「あー、そのままの意味だよ」
くだらない質問をするなというように、素っ気なく言われた。
「勝手に勘違いした女に、愛だの恋だの騒がれるのは鬱陶しい。お前みたいに俺のことを怖がって嫌ってるやつと一緒にいたほうがずっと楽だ」
石月さんはそう言うと、お腹の上で寝ている祐一を乱暴に揺さぶった。
「オラチビ。飯だぞ、起きろ」
「んー、トーゴいたいよう……」
「起きねぇと、お前の分の飯も食っちまうからな」
「それはだめぇー」
祐一は寝ぼけて石月さんの胸に顔を押し付けながら、ぐりぐりと頭を左右にふる。
その様子をながめながら、なぜか胸が痛くなった。
別に私は石月さんを嫌ってるわけじゃないです。
そう言おうとしたけれど、言ったってまた『鬱陶しい』とあしらわれてしまうだけに決まってる。