鬼上司は秘密の恋人!?
「確かにそのとおりだよな。俺がそんなくだらねぇ我が儘を言わなければ、父は死ぬことはなかった」
「そんなこと……!」
「今でもあの時の母の目が忘れられない。実の母に恨まれてるんだと幼心にぞっとした。それからはもう、愛なんて信じられなくなった。どんなに好きだの愛してるだの言葉を重ねても、どうせ表面だけで、なにかあればすぐに笑顔の下に隠しているぞっとするような表情をむき出しにするんだろうなと思うと、真面目に女と付き合う気になんてなれなかった」
膝に洗濯物を置いたまま固まった私を見て、石月さんは小さく笑った。
そして視線をそらし、なにもない床を見やる。
まるでそこに、残されたクーラーボックスがあるような気がした。
「俺はこの先もずっと誰も愛さずに、ひとりきりで生きていくんだと思う」
その言葉に、ひどく傷ついている自分がいた。
まるで死刑宣告をうけたように、指先が冷たくなった。
「だけど、お前とチビを見て、うらやましいとも思う。そんな自分が鬱陶しい」
自嘲するようにそう言って、石月さんがソファから立ち上がった。
「暗い話をして悪かったな」
そう言った石月さんに、慌てて首を横に振る。
ぱたんと音をたてて、ドアが閉められた。
ひとりきりになったリビングで、持っていたシャツを抱きしめる。
洗濯したばかりの、石月さんの白いシャツ。
誰のことも愛するつもりはないと宣言されて、気づいてしまった。
石月さんにどうしようもなく惹かれていることに。
恋を自覚した途端、望みがないことを知るなんて、神様は残酷だ。
どんなに石月さんを好きになっても、叶うことなんてないんだ。