鬼上司は秘密の恋人!?
「印刷、間に合いそうですか?」
『ん。一応記事は印刷所に送った。念のため印刷所の刷出しの確認をしたいから、今日は編集部に泊まり込む』
そんな忙しい中仕事を抜けて、休憩所かどこかから電話をかけてきてくれたんだろう。
電話越しに届く低い声には疲れが出ていた。
「大変ですね。無理しないでくださいね」
『無理しねぇと、雑誌がでねぇよ』
私の言葉に、石月さんが声をひそめて小さく笑う。
ひと気の無い休憩室で、こっそり電話をする石月さんの姿を思い浮かべると、胸の辺りが苦しくなった。
『今日、なにか用事あったのか?』
不意に優しい声色でそう聞かれ、言葉に詰まった。
咄嗟に祐一の顔を見る。
すると漏れ聞こえる会話で、話の内容がわかったんだろう。
祐一は小さな口を引き結んで、首を左右に振った。
「……いえ、なんでもないです」
『そうか。悪いな、早く帰れるって言ってたのに』
「お仕事だから、仕方ないですよ」
『チビは、そこにいんの?』
「います。電話、代わりますか?」
祐一のことを見ながらそう言うと、祐一はぷいっと顔をそらしてしまった。
「あ。ごめんなさい。電話、恥ずかしいみたいです」
『そうか』
私が取り繕うように言うと、石月さんは電話の向こうで小さく笑った。