鬼上司は秘密の恋人!?
『ちゃんと鍵をしめて寝ろよ』
「はい。石月さんも、無理しすぎないでくださいね」
そう言って電話を切る。
すると電話中顔をそらしていた祐一が、ぎゅーっと私にしがみついてきた。
「石月さん、お仕事で会社に泊まるって」
私がそういうと、私の胸に顔を押し付けた祐一が、「ん」と小さく頷いた。
「帰れなくて悪いなって謝ってたよ」
「ん」
「お仕事、大変だね」
「ん」
「残念だったね」
「……ん」
祐一の顔が押し付けられた場所が、じわじわと濡れていくのが分かった。
泣いているんだ。
必死に声をこらえながら。
そのことに気づいて、たまらず祐一のことを抱きしめた。
「トーゴといっしょに、おたんじょうびしたかった……」
とぎれとぎれにそう言った祐一の言葉に、鼻の奥がつんと痛くなった。
幸せに慣れちゃダメなのに。
この生活は今だけの『特別』だってわかってるのに。
それなのに、どうして石月さんがいないことを、こんなに寂しく思ってしまうんだろう。
いつの間に私たちは、こんなに甘やかされて我が儘になっていたんだろう。