暴走族に恋をする。



多くの人が行き交う交差点に、猫と私。
一緒に並んでしゃがむ私たちはきっと変な目で見られるね。


「さくらはこの景色が好きなの?」


さくらの首を撫でながら話しかけちゃう辺りが、本当に怪しい人かもしれないけど。


「私はこれから塾だよ。
……最近ね、快斗といるのが楽しくて…久しぶりの塾がめんどくさくて仕方ないよ。

快斗たちがいれば、塾なんて必要ないのにね…」


そんな私の話には、誰も返事などしなかった。
それでも確かに感じるさくらの温もりが、私を独りにはしなかった。


……そして、いつの間にか遠くに聞こえる大きなエンジン音。
駅に近いここなら、珍しいことでもないんだけど。


「…私はこの音が嫌いなんだ。
私の大切な人を奪った、この音…

あんたの主人も、そのうちああなるんだって。
私…好きになれるか不安だよ。」


好きになりたい。
快斗が好きなものを、私も好きになりたい。

そう、さくらに伝えたかったけど
その音が大きくなりつつあって、私の口はもう動かなくなっていった。


強い拒絶反応が、心の底から出てる。

この音……


もう、前をみることすらしたくなくて
私はその場で下を向いたけど……

そのあと、私のとなりの温もりがなくなって、私は顔をあげた。


近くなるその音

そして、交差点へと走っていたさくらの後ろ姿。


「……さくら!」


私はもう、動かずにはいられなかったんだ。


「さくら!」


すぐそこまで来てる音が、私の足を動かす。

さくらを拾った、あの日のように。



「あぶな「危ない!」


さくらを抱き上げた瞬間
大きな大きなエンジン音に負けないくらい、誰かの声が聞こえてきて

私はなにかに思いっきり突き飛ばされた。
……とっさに、さくらを強く抱き締めた。そのあとすぐにくる衝撃に耐えるために。


「ぐっ…」



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