暴走族に恋をする。
だけど、私を襲った痛みなんてものは予想よりも遥かに軽くて、膝を大袈裟にすりむいただけだった。
……そして、そんな私の思考回路はある発言によって正常に戻った。
「やべー、また跳ねちまったよ。」
少し明るいトーンの声
そして少しバカにしたような言い方
そして私はその声の主の顔をみなくても、誰のものかなんて容易に理解できた。
「つーかあのくらいよけろよな。
あんなのも避けられないなんて、ブラスパ幹部が聞いて呆れるわ。」
……"あんなのも避けられないなんて"
そしてもうひとつ耳に入った"ブラスパ幹部"
私はハッとして、さくらを地面に戻して後ろを振り返ると
そこには血を流し、動かなくなったキャラメル色の髪の毛をした男の子が倒れていた。
さくら色のカーディガンを赤く染めた、キャラメル色の男の子。
「……快斗!!」
それが誰なのか、顔なんか見なくたってわかるよ。
「快斗、快斗…」
倒れている快斗の元へと駆け寄ると、快斗は少しだけ目を開けた。
「…はは、やったよ桜子ちゃ…」
「……え…?」
どうして、笑っているの?
バイクに跳ねられて、どうして笑っていられるの…?
「これ、で…桜子ちゃんの願い…
やっと…叶えられた…
俺…龍一に跳ねられたから…
スピード違反…と……はぁ…はぁ…
前、方…不注意で…
執行猶予…終わる…
刑が…執行、されるよ……」
刑が、執行される…
……快斗、覚えてたんだ…
"あいつがまた罪を起こして禁固刑を受けてほしいって願ってる。"
私の心の奥底にしまってあった本音を…
「……バカ…なら私が跳ねられたのに
快斗が跳ねられることないのに……
なんで庇うの…」
私が突き飛ばされる前
私の耳に入ったのは確実に、快斗の声だった。
「大、切だから…
笑ってる顔…また、見たいから…」
快斗……
「大丈夫だから…ね、泣かないで…」
そういって目を閉じた快斗に、私の涙がポツポツと落ちた。
ひたすら名前を呼ぶことしかできなくて
「お願い、目を開けて…」
私の願いは、パトカーと救急車のサイレンによってかき消されていった。