暴走族に恋をする。
「……桜子はさ、昔はもっと明るくて可愛くて、友達とかめっちゃいたんだよ。
はっきり言って、人気者だったし、桜子のこと好きなやつももっといたと思う。」
「え、まじで?
じゃあなんで今あんなんなわけ?」
「桜子の親も前は明るくて優しかった。
高学歴の母親に、とにかく優しい父親。
すげー明るくて、真面目で、絵に書いたような憧れの家族だったんだよ。
高学歴の母親だから、子供にも高学歴を求めた。
だけど桜子にはそうでもなかっただよ。ただ桜子の希望で、小学校から受験はしてた。
だけどどこも全滅でさ。」
「…子供に高学歴を求めたのに桜子ちゃんには求めてなかったってこと?」
「そ。」
「……ってことは兄弟がいんの?」
「そ。上に、兄貴がな。
秀一くんっていって、それはそれはイケメンで。
桜子そっくりだった。
秀一くんは昔からすげー勉強もできて運動もできて、桜子には一番優しかった。
桜子も秀一くんのこと大好きだったんだよ。
自慢の兄貴だったと思う。」
「……なんで過去形?」
「…………3年前に、バイク事故でな。」
「え…?」
「……中1の冬にな、桜子が友達と遊んで帰りが遅くなった日があって、秀一くんは心配で迎えに来てたんだ。
その帰り道の交差点で、信号が青だったから二人で渡ってたら、暴走族が集団で交差点に突っ込んできて
…秀一くんはとっさに桜子を突き飛ばした。
秀一くんはその暴走族の先頭のやつに、バイクで跳ねられ、後ろからきたやつに引かれて…
桜子の目の前で亡くなった。
大好きな兄貴が目の前でそんなことになって、桜子はかなりショックを受けたと思う。
だけど、そんな桜子をさらに追い詰めたのが母親。
秀一くんは勉強もできて、名堂にも通ってたから期待の息子だったんだよ。
スポーツもできて、家事とかも率先してやってたし。
そんな秀一くんがさ、遊びに行った桜子を迎えに行った帰りに事故死。
母親は桜子を責めたんだよ。
あんたが遊びに行ったせいで、遅くなったせいで、って…
それから、桜子の母親は変わったんだよ。
桜子を秀一くんの代わりのように扱ってる。
だから、高校受験で名堂に失敗した桜子をすげー責めてたみたいだし。
桜子もそれからどんどん変わってった。
自分には人生楽しむ資格なんかないって思ってる。
友達と遊ぶこともやめた。
ひたすら母親の満足がいくように勉強をしてる。
……最近は暴力もあるみたいだしな。
母親からの。
桜子はもともとおしゃれだって好きな方だった。
あの長いスカートに、しっかり留めたボタンは自分の戒めか、もしくは母親から受けた暴力のアザを隠すためにやってるんだろうな。
だから、桜子を捕まえるなんて相当な努力が必要だろうな。
桜子を変えて、母親を変えなきゃいけないから。
俺も最初は頑張ったんだけどなー…」
……は?