暴走族に恋をする。
「………たった2週間しかたってないけどさ、俺は桜子ちゃんのこと、ちゃんと見てきたよ。
誰よりも。
だからさ、桜子ちゃんも俺らのことちゃんと見てくれないかな。
暴走族だから、暴走族なんて、ってさ
暴走族一括りにしないで、俺らは俺らでちゃんと見てほしいから。」
大津くんの言ってることがどれも私の心を突き刺して
閉ざしたままの心のドアは少しずつ隙間が空いていった。
そして、動かなかった私の口は簡単に開いた。
「………お兄ちゃんが事故に遭ったとき、あの人たちがお兄ちゃんを見ていったの。
"あんなのもよけられないなんて、どんだけまぬけなんだよ"って…
頭から血を流して倒れてるお兄ちゃんを見て笑ったの。
どうして笑っていられるの?ってずっと思ってた。
その答えは誰からも教えてもらえなかった。
無免許運転に、スピード違反。信号無視。
暴走行為で人を跳ねても過失致死。
執行猶予3年。
その人はその日からバイクを乗るのをやめたけど、執行猶予期間ももうすぐ切れる。
一人の命を奪ってもその程度。
暴走行為をしていたのに初犯だからって…そんなのおかしいでしょ。
人を殺して、笑ってるようなやつなのに、普通の生活が出来ることが腹立たしかった。
私たちはこんなに苦しんでるのに、あいつは普通の生活を送ってる。
その程度で罪を償ってるつもりなのが腹立たしい。
禁固刑を望んでる私たちにとっては真逆の判決だった。
大津くんは私をいい子扱いしてるけど、実際はそんなことない。
あいつがまた罪を起こして禁固刑を受けてほしいって願ってる。
判決は禁固刑3年、執行猶予3年だった。
だから、3年以内に暴走行為をして刑が執行されることを私は強く願ってる。
それができないなら、あいつの大切な人も交通事故で死ねばいいのにって、それくらいあいつを私は憎んでる。
大切な人が死んで、殺した相手にそれを笑われたらどんな思いをするのか、あいつにわからせたいって思ってる。
………そのくらい、私の性格は歪んでる。
きっとあなたたちよりかなり歪んでる。
そんな自分を正当化させるために勉強をしてる。
お母さんに喜んでもらうため、っていうのもあるけど、実際は自分を正当化させるためにそんなことをしてる。
そんな私があなたたちといたら、私はどんどん汚い道にそれていく気がする。
自分が崩れ落ちないように強がってるって言うのは間違ってない。
だけどあなたたちと傷の舐めあいをしたら、私は一気に崩れてしまう。
………それが、私の本音。」
誰にも話したことのなかった本音を、どうしてこの男に言ってしまったのかはわからない。
だけど、この男に強く当たることで私は自分で自分を正当化した。
こんな暴走行為をしてるような人が悪いんだと…
私がそんな考えになったって仕方ないんだと思えていた気がした。