暴走族に恋をする。
「保護観察すらついてないあいつはもうバイクにも乗ってるかもしれない。
それでスピード違反したってバレなきゃ意味がない。
その程度の判決だったから、あいつがまた犯罪を起こすことを願ってるの、私は。
………幻滅、したでしょ?
そろそろ手を離して。もう行くから。」
「ひとつ聞いていい?」
「………なんですか?」
「それが俺らの族だとは思わないの?」
「あなたたちの部屋にあった旗には蜘蛛が書かれていた。
だけどあいつの掲げていた旗にはかたつむりが描かれていたから。
あなたたちのところではない。」
「かたつむり…スネイル・レッドか…」
「スネイルレッド?」
「族の名前。俺らはブラックスパイダー。
もともとはブラックスパイダーだったやつが反乱起こして新しく作られた族なんだよ。
もう何年も前の話だし俺らは全然わかんないんだけどね。」
「………そう。」
「ブラックスパイダーはもともと街中とか走らないんだ。
だけどスネイル・レッドのやつらは注目を浴びたいから街中を走る。
まぁブラックスパイダーのそのやり方が嫌で、脱退したんだろうけど。」
「そうですか。
………それで、いつになったら手を離してくれるんですか?」
「離すつもりなんてないけど。」
「困ります。」
「別に正当化なんてしなくていいじゃん。
むしろ、俺は桜子ちゃんにそんな人間らしい思いがあったことを喜んでるけどね。
大切な人が殺されたんだもん。
そうやって思って当然じゃん。
復讐してやろうなんて考えてるなら止めるけど、そういうつもりがあるわけでもないみたいだしさ。
俺は桜子ちゃんのその思い、そのまま受け止めるよ。
綺麗なところ、真面目なところ、汚いところ、全部含めて桜子ちゃんだしね。
だってさぁ、本物の桜だって綺麗に咲いた花、枯れちゃった花、まだ蕾のままの花、全部含めて綺麗だもん。
桜子ちゃんだって、全部含めて綺麗だよ。」
そんなことを真面目に言う大津くんを見て、なんだか笑ってしまった。
「……そういうこといってて恥ずかしくないですか?」
似合ってなさすぎて。
「はずいよ!!
でも桜子ちゃんのためなら言うよ!」
「…ありがとう。」
「へ?」
正当化しなくていい、か………
ずっとひた隠しにしてきた本音を聞いても私を受け入れてくれたことが嬉しくて、私は自然とお礼を述べていた。