君の涙の理由を俺は知らない。



「しおん」


俺の名を呼ぶそいつは、泣き腫らした目をしていた。



頬に流れているのは涙なのか、雨なのか。


…多分、両方。



「傘ねぇの?」


髪や服が体に張り付いていていつもより色っぽい。


背の低い小さな体は俺と目を合わせると自然と上目遣いになり、うっすら透けた下着が興奮を誘う。



「……忘れちゃった。」

乾いた笑い。



まぁ、登校してくる時傘を持ってるやつなんていなかったしな。


俺は偶々置き傘があったけど。



「コレ、使えば。」

鞄の中からタオルを取り出し、頭にかけてあげる。


「ぁ、ありがと…。」

受け取ると、少し照れながら濡れた顔や腕、髪を拭いた。



この傘の中は二人だけの世界みたいで少し恥ずかしい。



「……なんか、なゆとこうして話すのは久々だな。」

「そうだね、高校に入ってから全然話してないよね。」


なゆとは小学校からずっと一緒だけど、中3以来同じクラスになれず、元々女子とはあまり話さないからそれ以来話していない事になる。


そして中3の頃、誰にも言った事はないが実はなゆの事が結構気になってたんだ。



けど、他のやつとの噂があって、その気持ちを伝える事なく終わった。



思えばあん時から変わってねぇなぁ。


なゆはあの頃と変わらない笑顔を俺に向けていた。




『なんで泣いてんの?』

って、聞く勇気が出ず、

「さっきの何の歌?」

って、聞いた。



「聞こえてたの?」

うんって頷くと、恥ずかしいって照れながら赤くなった顔を両手で隠した。


「あれはインディーズの曲で、ネットで見つけたの。」

「もっかい歌って。」

「むりむり!音痴だし。」

「もう聞いたから、気にするなって。」


渋々なゆは了解し、一度目を閉じて歌った。


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